ビジネスで使われるアンカリング効果とは
行動心理学のひとつに「アンカリング効果」と呼ばれるものがあります。要するに認知バイアスなのですが、他の効果とは少し違っていて、わかっていてもスルーしづらい特性を持っています。
そのため、今ではアフィリエイトサイトや、怪しげなオンラインショップなどで頻繁に使われており、結果として「詐欺的行為」として広まったことで消費者庁からもガイドラインが発表されることになっています。
このように、かなり強烈なアンカリング効果。賢く上手に活用すれば、僕たちのビジネスにも、人間関係にもうれしい結果をもたらせてくれるはず。
そこで今回は、ビジネスで使われるアンカリング効果についてお話していきます。
1: アンカリング効果とはこういうことです
まずはアンカリング効果とはどういうことなのかをお話します。
(1)アンカリング効果とは
アンカリング効果を英語で記すと次のようになります。
Anchoring Effect
この「Anchoring」とは海で船が停泊するとき、流されないようにする「錨」の意味です。
錨と同じように、人間の思考をどこかへガッチリつなぎ止め(つなぎ止めたところが基準点になります)、そこから見た(感じた)ことが「お得」に見える効果です。
例えば、こんな使い方が一般的です。
- 1000万円という高額な高級車を見せてから、850万円の車を見せてセールスする
- 12万円のハイブランドバッグを見せてから、9万8千円の少し安いバッグをセールス
- 30万円のゲームPCを見せてから、25万円の少し安いPCをセールスする
最初に見せたところが「アンカリング(基準点)」となり、そこから次に提示された価格などを比較するため、「おっ!安いじゃないか!」という気分になるわけです。
(2)アンカリング効果は数字と好相性
先ほどの例を見て頂きたいのですが、アンカリング効果をとても有効に活用するなら、数字を使って具体的にアプローチすることが大切です。
というのも、
「多くの高い車よりも、こちらの少し安い車はいかがでしょうか?」
このような説明をいくらがんばっても、基準点が明確ではないためアンカリングできないんですね。
それよりも、
「1000万円の車よりも、こちらの990万円の車はいかがでしょうか?」
この方が、聞いている人も頭の中で明確にイメージできるため、基準点を持ちやすくなり、そこから次の提案を比較してくれるようになります。
アンカリング効果は数字と相性が良いですから、曖昧な話しではなく明確で具体的な話しにする必要があります。
常に逃げ道を探している人や、「○○かもしれませんね」という口癖を持っている人には向かないのがアンカリングです。
あなたのキャラクターやセールス力によって効果も変わるのがアンカリングだと覚えておきましょう。
2: ビジネスで使われるアンカリング効果
ビジネスシーンで使われるアンカリング効果を見ていきます。
(1)チラシ
今も昔もアンカリング効果を使っているのがチラシです。
こんな価格表記を見たことはありませんか?
- メーカー希望小売価格
- 当店通常価格
- セール最終価格
- 閉店特別価格
いわゆる「二重価格」の表示ですね。あまり激しくやると詐欺的行為になりますが、今でもなくなりません。
この方法も、一つ目に表記した価格でアンカリングを行っています。
(2)POP
チラシと同じようにアンカリング効果が多用されるのがPOPです。
一つ目の価格を赤のラインで消して、二つ目の価格を赤字で大きく表記。「タイムセール」という言葉を追加しているところもあります。
これもチラシと同じで、一つ目の価格でアンカリングを行い、二つ目の価格を「お得」に見せています。
(3)店頭
「通常価格」「本日限りの特価」
店頭で見かける(聞くこともあります)アンカリング効果を狙った使い方です。しかし、毎日やっている可能性がありますので、本当は「お得」ではないことがあります。
結局は「お得に感じてもらう」ことができれば、アンカリング効果は正解ということです。
(4)ネット
店頭と同じように激しくアンカリング効果を使っているのがネットショップ。特に競合の多いジャンルのネットショップは価格競争へ自ら参入していくため、アンカリング効果を使わなければ売上が維持できなくなります。
(5)メディア
メディアサイトで見かけます。
「このサイトからなら○○%割引」とか、「このサイトからなら通常申し込み10000円のところ、半額以下の3000円でお申し込みできます!」というメッセージ。
これもアンカリング効果です。実際に落ち着いてオフィシャルサイトを見ると、いつでも「3000円」の申し込みができたりします。
しかし、一度アンカリング効果を感じてしまうと、冷静な判断ができなくなり「お得!」という感情が上回ってポチッとしてしまいます。
3: アンカリング効果活用の注意点
アンカリング効果は有効なので、これまでも、おそらくこれからも使い続けられることでしょう。
しかし、強烈な効果があるということは、副作用もあるということを意味しています。
(1)二重価格表示
先ほども少しふれましたが、価格の二重表示になってしまいます。二重表示そのものは悪くありませんが、基準となる価格を普段よりも高く設定してアンカリングし、通常価格で販売するというのは詐欺的行為になります。
消費者庁からも、こういった行為へのガイドラインが発表されていますから、店頭やオンラインに関係なく十分に注意しておく必要があります。
(2)太い関係性維持の消失
アンカリング効果を狙うために、あまりにも激しい二重価格表示を継続すると、太い関係性を持った顧客を失っていくことになります。
顧客はバカではありません。そして、今ではスマートフォンがあれば、簡単に他店と比較することができます。
もし、あなたのお店で詐欺的な二重価格表示をしていたとすると、一度目は購入してもらえても、二度目は別のお店で購入されてしまいます。そして、二度目のお店を選んだときに、あなたのお店の行為を顧客は理解しているため、良くない印象だけが残ってしまいます。
こうなると、メルマガを送っても見てもらえません。セールのお知らせをしても反応はありません。
信頼関係を失っていますから、安定した売上の根源となるリピートがなくなり、常に広告費を注ぎ込んで新規獲得へ奔走し続けることになります。
4: アンカリングは人間関係にも使われている
アンカリング効果はビジネスだけではなく、人間関係にも使われています。
(1)人間関係
例えば、毎回遅刻する人がいるとします。この人はいつも約束の時間よりも1時間遅れてきます。
まわりの人も知っているため、毎回遅刻する人が約束の時間よりも30分遅刻してやってきたら「おっ!今日は早いね」ということになります。
でも、事実は遅刻しているんですけどね。
このように、人間関係でも普段の行動などが基準となり、知らぬ間にアンカリング効果として活用できていることがあります。
(2)アンカリング効果のある/なし
アンカリング効果のある人と無い人がいます。
無い人の特性としては、相場を知って理解している人です。基準となるところを、目の前の事象ではなく別のところにもっているため、いくらアンカリング効果を使っても感情が揺れません。
反面、ネットで使われる「情報弱者」と呼ばれる人たちは、相場を正しく知ることができていないため、簡単にアンカリング効果の影響を受けてしまいます。
5: まとめ
アンカリング効果は影響を与えやすい方法です。そのため連発してしまいたくなりますが、やりすぎると信頼関係を失っていく原因になってしまいます。
一時だけ稼いで後は知らん顔。こういう仕事で満足できる方なら連発してもいいでしょうけれど、僕たちのように長く良い関係を続けていきながら仕事をしたい人たちは、相場を正しく伝えた上で使うのが効果を持続できるポイントになります。